東京高等裁判所 平成8年(行ケ)271号 判決 1997年4月23日
名古屋市千種区今池3丁目9番21号
原告
株式会社 三洋物産
代表者代表取締役
金沢要求
訴訟代理人弁理士
後呂和男
同
高木芳之
同
小林洋平
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
小泉順彦
同
八巻惺
同
幸長保次郎
同
伊藤三男
主文
特許庁が、平成7年補正審判第50234号事件について、平成8年9月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成元年8月29日、名称を「入賞装置における発光表示装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をし(平成1年特許願第222341号)、これにつき平成7年9月1日に明細書の特許請求の範囲の記載その他を補正する手続補正(以下、「本件手続補正」という。)をしたが、同年12月11日、本件手続補正を却下する旨の決定を受けたので、同年12月11日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成7年補正審判第50234号事件として審理したうえ、平成8年9月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月28日、原告に送達された。
2 本願の特許請求の範囲の記載
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
打球を受入れることができる入賞装置に設けられる発光表示装置であって、
該発光表示装置は、前記入賞装置に取り付けられる発光源と、該発光源から発せられた光を一端部から取入れて他端部から放出し、且つ屈曲させながら離隔した位置に誘導透過する透明の材質からなる誘導透過部材と、から成り、
前記誘導透過部材には、その屈曲部に傾斜面を形成して前記発光源から発せられる光を反射させて他端部に向って誘導するようにしたことを特徴とする入賞装置における発光表示装置。
(2) 本件補正による特許請求の範囲の記載
打球を受入れることができる入賞装置に設けられる発光表示装置であって、
該発光表示装置は、前記入賞装置に取り付けられる発光源と、該発光源から発せられた光を一端部から取入れて他端部から放出し、且つ屈曲させながら離隔した位置に誘導透過する透明の材質からなる誘導透過部材と、から成り、
前記誘導透過部材に、その屈曲部に前記発光源から発せられる光を全反射させる傾斜面を形成し、内部を透過する光が屈曲部前の光の進路と屈曲部後の光の進路とが平行状となって他端部から放出されることを特徴とする入賞装置における発光表示装置。
(注、下線部分が補正箇所である。)
3 審決の理由の要点
審決は、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書又は図面」という。)に記載されていない「光を全反射させる傾斜面」と、傾斜面の物理的特性を特許請求の範囲に新たに補正するとともに、詳細な説明の欄の記載をそれに合わせて補正するものであるところ、当初明細書には、誘導透過部材の材質は合成樹脂製の透明な材質と記載されているのみで、材質について何ら具体的に記載されていないし、これを示唆する記載もなく、光の全反射は誘導透過部材の屈折率など物理的な性質によってはじめて発生するものであるから、当初明細書に合成樹脂製の透明な材質と記載されているのみでは、該誘導透過部材が光の全反射を起こすものとはいえないとし、本件補正は、当初明細書又は図面に記載されていない事項を補正しようとするものであって、明細書の要旨を変更するものと判断し、補正却下決定を妥当なものとした。
第3 当事者双方の主張の要点
1 原告
審決は、本件補正に係る「光を全反射させる傾斜面」との補正部分が当初明細書又は図面に記載がないと判断したが誤りであり、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) LED素子から発せられる光の入射角については、当初明細書の「誘導透過部材29a、29bのクランク状の屈曲部には、傾斜面30が形成され、誘導透過部材29a,29bの一端(他端)部に臨むLED素子28a,28bから発せられた光が第1図の一点鎖線で示すようにクランク状に形成された誘導透過部材29a,29b内を効率的に直進するように反射し、誘導透過部材29a,29bの他端(先端)から放出されるようになっている。」(同明細書13頁1~8行)との記載と図面第1図をみれば、LED素子28a、28bから発せられた光が傾斜面30に対して45°の角度で入射していると理解されることは、明らかである。
審決は、誘導透過部材に関して、「誘導透過部材の材質は、合成樹脂製の透明な材質と記載されているのみで、材質について、何ら具体的に記載されていない。又それを示唆する記載さえない。」(審決書4頁13~16行)と認定しているが、「合成樹脂製の透明な材質」の臨界角が45°よりも小さいことは、当業者にとって明らかな事実である。
(2) そうすると、当初明細書及び図面の記載から、当業者は、図面第1図に示す一点鎖線が光の全反射を示すものと理解することが明らかである。
したがって、審決の上記判断は誤りであり、これを前提とする審決の結論もまた誤りである。
2 被告
原告の主張(1)については、あえて争わない。
第4 当裁判所の判断
1 原告の主張(1)の点は、当事者間に争いがない。
この事実によれば、当初明細書及び図面の記載から、当業者が、図面第1図に示す一点鎖線が光の全反射を示すものと理解することは明らかである。
したがって、本件補正に係る「光を全反射させる傾斜面」は、当初明細書及び図面に実質的に記載されていると認められるから、本件補正は当初明細書又は図面の要旨を変更するものということはできない。
2 よって、審決は違法として取り消しを免れず、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)